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4話 社会的抹殺と終わりのない贖罪、当主と妻への制裁

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-12-25 11:41:18

「そ、そうだったな……。ユウヤ、と呼んで構わんか?」

 皇帝の鋭い眼光が和らぎ、俺の反応を待つ。俺は心臓が跳ね上がるのを感じながら、緊張で強張った喉を必死に動かして言葉を絞り出した。

「は、はい……あの、お父さんと呼んでも?」

 恐れ多いとは思いつつも、ミリアの父親である彼との距離を少しでも縮めたくて口にした言葉だった。すると皇帝は一瞬の沈黙の後、腹の底から響くような豪快な笑い声を上げた。

「構わんぞ! 私と最愛の娘の命の恩人でもあるしな……。この我を父とよんでくれるのか。この私を好きに呼ぶがよい、許すぞ。わっははは!」

 その笑い声は広間の高い天井に反響し、先ほどまでの刺すような緊張感を吹き飛ばしていった。お互いに呼び方を確認し合い、どこか不思議な絆が生まれたのを感じたところで、皇帝の表情がふっと真剣なものへと変わった。彼は玉座の向こう側に控える国王へと、射貫くような視線を向ける。

「――して、この王城の警備はどうなっているのだ? 武装をしている者を易々と王城へ入れるとはな」

 その声には、一国の主としての冷徹な怒りが含まれていた。問い詰められた国王は、肩を落として深く頭を垂れ、消え入りそうな声で答えた。

「すみません……。ユウヤ様のお陰で資金の方は改善できたのですが、兵の方がまだ集まらない状態でして……」

 絞り出された謝罪には、王としての不甲斐なさと、再建途上にある国の苦しい台所事情が滲み出ていた。広間には再び、重苦しい空気が流れ始めた。

 冷え切った空気の中に、斬り伏せられた若者たちの生温かい血の匂いが混じり合い、広間の重苦しさを一層引き立てていた。皇帝は床に転がる骸を無感情に見下ろし、氷のように冷徹な宣告を口にした。

「そうか……まあ良い。王城に武器を持ち込み皇帝である私と皇女である娘と、国王の命を狙ったのだ、謀反の企みだろ。そこにおる、家族親類は全員斬首だ。謀反の企みを知っておっても止めることなく、手助けををした者もおるだろう」

 その言葉は絶対的な決定事項として広間に響き渡り、跪く元貴族たちの肩を絶望が叩き潰す。しかし、そんな氷の支配を打ち消すように、隣に座るミリアがムッとした表情で眉を吊り上げた。彼女は玉座の肘掛けを軽く叩き、不満を隠そうともせずに声を荒らげる。

「お父様。急に入ってきて仕切らないでください! 少し黙っていてください。続きはユウヤ様にお願いしますので!」

 (ミリアさん……余計な事を言わないでください。相手は帝国を治める皇帝陛下なんだから)

 俺は冷や汗が背中を伝うのを感じ、居心地の悪さに身を縮めた。一国の王を黙らせるほどの威厳を持つ人物に対して、これほどまでに容赦のない物言いをする婚約者の度胸が恐ろしい。広間の護衛たちまでもが、主君が辱められたのではないかと顔を引きつらせている。

 だが、当の皇帝は、愛娘に厳しく窘められると、驚くほど素直に口を噤んだ。先ほどまでの峻烈な覇気はどこへやら、彼はまるで叱られた子供のように少し肩をすぼめ、今度はキラキラとした期待の眼差しを俺の方へと向けてきた。

 無言の圧力が、先ほどの刺客の矢よりも痛烈に俺の胃を締め付ける。皇帝の大きく、それでいてどこか楽しげな瞳が、俺が何を言い出すのかを一言も漏らすまいと真っ直ぐに注がれていた。

 静まり返った広間に、俺の声が低く、しかしはっきりと響き渡った。跪く者たちの絶望に満ちた視線と、皇帝の射るような眼光が俺に集中する。

「皇帝陛下とミリア皇女を狙った攻撃は未遂とはいえ許されることではない。元貴族の当主と、その妻以外は斬首。当主と妻は開放する」

 その言葉を聞いた瞬間、皇帝は怪訝そうに眉を寄せ、不思議そうな顔をして俺を見つめてきた。その瞳の奥には、甘い温情を許さない厳しい統治者の色が滲んでいる。

「何だ? その甘い罰は? 謀反の企みなのだぞ」

 低く地響きのような声が問いかけてくる。俺は深呼吸を一つし、真っ直ぐにその眼差しを跳ね返した。

「お父さんと……大切な婚約者であるミリアの命を狙った攻撃ですので、その罪は斬首の一瞬で終わらせはしません。一生を掛けて償ってもらいます。本人は何も出来ず、妻は仕事に夫の介護で変な企みを起こす事もできなくなりますし……自分の兄弟、子供や孫を自分のせいで死なせた事を、生きながらにして反省をして頂きます。妻には離婚の許可は出来ないように致しますし、謀反の大罪人の妻だと大々的に公示を一ヶ月間行います。生活をしてもらわないと困るので、城の外での仕事を与え食料と給金を与えますが、王都の外へ出るのは禁止と致します」

 俺の言葉が重く、冷ややかに広間の空気を凍らせていく。ただ殺すよりも残酷な、終わりなき後悔と社会的制裁。それを聞いた皇帝は、しばらくの間、俺を品定めするように見つめていたが、やがて何かを納得したように何度か深く頷いた。彼の口元には、冷徹な理性を認めた男に対する微かな笑みが浮かんでいるようにも見えた。

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